文学的こじらせマンガ『惡の華』の登場人物考察-仲村さん、佐伯さん、常磐さんについて

最初にこの漫画に触れたきっかけは確か、「マガジンpokect」というマンガアプリがきっかけだったと思います。

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最初からではなく、とある途中の一話だったのですが、1コマずつの緊張感・間・膨大な選択肢から抽出されたであろう言葉の一つ一つが無料分の1話で途切れさせることができず、

結局、全巻購入

しました。

そのとある「切り出し1話」のはずが全巻購入まで引き込まれてしまったその理由と、その理由の核となる登場人物の「青春マンガの筈なんだけど臙脂色のドロっとしたもの」をご紹介して行きたいと思います。

全体のあらすじ

気弱な文学少年(中学生)が慎ましやかな生活を送るはずだった

©押見修造/講談社

舞台は作者の故郷でもある群馬県桐生市。

小説好きの主人公はどこにでもいるごく一般的な男子中学生。好きな子はいるが奥手で話しかけれず小心者のいち面があるが、ある日の放課後、思いを寄せる女の子の体操着をひょんなことから盗んでしまう。

誰もいないと思いこんでいたその日の放課後、実は一番見られてはいけないクラスメイトに見られており、その後長きに渡って暴露されることを恐れて揺すられることになる。

急にドMに転向する主人公

暴露すると脅されているため、様々な恥ずかしい行動の数々を敷いられることになる主人公。

発狂したり反抗したり抗うことを考えるが、いつのまにかそのクラスメイトが強いる恥辱的な行動に快感を覚え始め、さらに恥辱的な命令がないと麻薬が切れたように彷徨い出す主人公。

この時既に変態ドMと相違ない描写に。

そして登場人物全員が変態に変わっている壮絶な前半

体操着を盗まれた可憐な美少女ヒロインもそうこうしている内に、

あっという間に痴女(中学生)。

そしてことを目撃したドSキャラは、

灯油かぶって焼身未遂。

という、現実的な描写内で繰り広げられる

究極にひねくれた中2世界。

そこから穏やかな高校生編(後編)

物語の中心で起こった「事件」から関係者は散り散りになり別の場所で暮らすことに。

そこからは前編を「トラウマ」として心のなかに押し込めピュアな恋愛マンガが展開されていく。

主な登場人物

春日高男

©押見修造/講談社

このマンガの主人公。そして初っ端から体操着を盗んで読者を一番どぎまぎさせる人。

体操着盗難の目撃者から恥辱的行動の数々を強いられるが、エスカレートする毎にこの男の変態度もエスカレート。完全なアウトサイダーになるかと思いきや、何故かふとしたタイミングで校内随一の美女から言い寄られる

モテキャラ

に変貌する。

仲村佐和

©押見修造/講談社

体操着盗難の現場を目撃し、そこから主人公に脅しをかけ、自らも変態の一部を露出し始める。

ただし、この仲村佐和の異常性は序盤こそミステリアスさと相まって毒々しさが漂いますが、物語が進んでいくに連れて醜悪な雰囲気というより、ただただ自分の心に起こっていることに率直で、それが外界とのフィルターに掛けられていないだけ、という描写が多いように思います。

高校生編でほぼ「過去のキャラ」になるが、主人公の脳裏に文鎮のように居座る強烈さで前半は描かれている。

Wikipediaでは仲村佐和はこの漫画のヒロインで影の薄い後半が存在するため「ヒロイン感」は薄いが、クライマックスで主人公が捜索する箇所では、

私も仲村佐和に会いたいと思った。

っと思わせた、ってことはやはりヒロインなのかと後々感じるようなキャラとしての手触りがある。

佐伯奈々子

何を隠そう、主人公に体操着を盗まれた人。クラス・学年に一人存在するマドンナ役で清楚可憐。

ふつーの考えであれば「可哀想」「悲劇のヒロイン」「可憐で美人薄命」みないなキーワードが似合いそうな物語スタート時点の描写ですが、おそらく

この人が一番変態

になってしまいます。

体操着盗まれた→周囲「可哀想」「盗んだ変態誰だ!」的な所からどうしても「守られる側」を想起しますが、物語の中、一時的にですが、

狂気の多寡では本編中1位。

この部分がページめくりを止まらせない意外性と全巻購入を強いる部分ですね。

常磐文

©押見修造/講談社

高校生編のヒロイン。いわゆる「ミス◯◯高校」というのに選ばれそうなスタイル・美形で、「あー高校でもこんな感じで一般人離れしたモデルみたいな人いたな~」と思わせる描写。

現実でもそうですが、たいていこういったタイプの人は学年でもある程度エッジがある人達、いわゆる『リア充』グループと一緒にいる、もしくは彼氏がいるパターンが多いですが、この漫画でも例に漏れず最初はそんな彼氏と付き合っている設定。

ただこの漫画ではそういった『リア充』グループの連中を「つまらない人たち」と描いており、彼女自身は自分は文学好きでその面は人に言えない、彼氏にも公表できない部分としているが、文学好きの主人公(根暗)と波長が合い、美女と根暗の奇跡が展開されていく。

作品のこの部分が

最も高校生活に戻りたくさせる

部分であり、同時に

そんな現象は起きないと現実に突き落とす

部分でもあります。

ただ、本編中では前半部分の濃さもあり、主要登場人物としては最も正常な人として描かれています。

『惡の華』の個人的名シーン

迫る美少女ヒロイン佐伯奈々子

前述でも登場した、冒頭に体操着を盗まれてしまう「最初は可哀想な」女の子。

その佐伯奈々子が主人公に対して自分のプライドを捨てて躙り寄るシーン。

©押見修造/講談社

この時、心の中で思いました。

「嗚呼、全員変態になってもーた」

核心はこの後のシーンに凝縮されていますが、

ココまで佐伯ファンだった読者からすると振り上げた拳を

主人公に持っていくべきなのか

股間に持ってイクべきなのか

分からなくなるほどの衝撃を受けたはずです。

お祭りで計画を実行に映す春日と仲村

中学の時に何かしら色々うまく行かなくて世の中全てが灰色に見えるときが誰しもありますが、そんな世の中から決別しようというイベントを街で一番の注目を集めるお祭りに設定する春日・仲村。

©押見修造/講談社

そこでの緊張感・狂気・焦燥感などを全て孕みながらいびつで、あどけない、まだ未成熟な言葉で決別を実行しようとする2人。

この雰囲気とコマ割り・流れも個人的に大変好きなのですが、

▼一番心臓が握られる感覚に陥ったのはこの瞬間。

佐伯さん(ショートカットになってますが)、負けたんですね、異常性で、仲村さんに、春日の中で。

前述の名シーンで一時的に変態バロメーターを吹っ切ってしまう佐伯さんですが、やはり変態の頂点のやることは違うこと、その頂点の人達がやる儀式に自分がいないこと。

そしてその計画をテレビ越しで見なくてはならない敗北感と羨望。

その全てがこの短いコマ割りの中に凝縮されていて、この漫画のクライマックスよりも迫真に迫る一コマだと思っています。

勢いだけの「空っぽ」連中を一蹴する

最後は高校編から。

もう既に完読された方は主人公の高校生編ヒロインである常磐さんへの告白を名シーンと設定されている方も多いかもしれませんが、私は違うところでした。

▼この現在彼氏に一言物申す所。

©押見修造/講談社

ココだけ見てもピンとこないかもしれませんが、ここまでの流れの中に誰もが経験する

異種メンバーに飛び込む「アウェー感」

がこれでもかというくらい描かれています。根暗な少年が暴走族の集会に参加し一枚ずつ服を脱がされるような。

アウェーなメンバーの中心人物が常盤さんの彼氏。その彼氏が調子に乗って主人公春日をまくし立てますが、

▼さらにこの一撃。

©押見修造/講談社

この瞬間がまさに

からっぽリア充を根暗が一蹴した瞬間

なのです。

ふつーに見るとこのシーンは何気ない会話シーンのひとつのように見えますが、実はこのシーンによって高校生編の主人公の風向きが完全に変わる一コマだと思っています。

さらに、根暗な男子を超美人ヒロインが敬意を持って救いの手を差し伸べるという奇跡の始まりを表す一コマでもあるのでした。

誰もが経験するアウェーな状況からの逃亡を、ここまで羨ましい形で描写しているこのシーンを挙げたいと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は「惡の華」についてレビューと名シーンをまとめてまいりました。

このタイトルを読み終えたのはつい最近の出来事ではないので本記事を執筆しながらいくつかの部分を読み返しましたが、

危険。

一度読み始めると知っているはずの先が何故か気になってしまい作業が捗らない…。

基本的に一度読み通したマンガは当面読み直さないのですが、一段落着いたら再度読み直しをしてみようかなと思います。

それくらい中毒性と異常性と青い春「青春」が同居した良い漫画でしたのでおすすめです!